2012年4月9日月曜日

宗教曲を歌う

所属する合唱団で、今、宗教曲小品を2曲とフォーレのレクイエムを練習している。小品の方は「リーダーシャッツ」に載っているポピュラーなものだ。当然ラテン語で歌うので、合唱経験浅い身には、まずラテン語の発音になれる必要がある。学生時代にラテン語をやりかけたが、名詞第1変化で挫折。以来、気にはなりながらもラテン語に取り組むことはなかった。ところで、通常学ぶラテン語は、古典ラテン語。ウェルギリウス、キケロー、カエサルなど文人が輩出した紀元前1世紀から、セネカ、タキトゥス、プリーニウスなどの時代、紀元1,2世紀にかけての時代の文語である。学校で学ぶこの古典ラテン語の発音が復元されたのは19世紀末らしい。それ以前はそれぞれの母語流儀で発音していたという(アンリエット・ヴァルテール著『西欧言語の歴史』153頁)。

話はややこしくなるが、宗教曲のラテン語の発音は、この復元された古典ラテン語の発音とは異なり、いわゆる教会ラテン語。カトリック教会の長い伝統の中で引き継がれてきたものだ。しかしこれとて,母語色が抜けきらず、イタリア以外の地のカトリック教会ではわざわざ「イタリア語式」に倣うよう求められこともあったという(上掲書154頁)。われわれが歌う宗教曲は古典ラテン語の発音とは異なる、イタリア語なまりのラテン語と言っていいのかもしれない。いわば口語ラテン語のなれの果ての一つがイタリア語であることを考えると、やや滑稽な気がする。親が子供の影響を受ける話だからだ。

さて、今練習しているモーツァルトの「アヴェ ヴェルム コルプス」の中の'de Maria Virgine'。’ヴィルーネ’と発音したものか、’ヴィルーネ’と発音したものか迷っている。古典ラテン語なら’ウィルギーネ’であろうが、教会ラテン語の発音に倣うとすれば’ヴィルジーネ’、しかしドイツ人モーツァルトの曲であることを考慮すると、ドイツ語に訛って’ヴィルギーネ’と歌ってみたい気もする。でも、モーツァルトの生まれ育ったザルツブルクは当時司教座があった、ローマカトリックの直轄地で、イタリア色の強い町・・・。結局、YouTubeでいくつかの演奏を聴いてみたところ、どうやら’ヴィルーネ’と歌っているようだ。ただドイツ人はどちらで歌っているか、興味がある。

話は一転。われわれが歌う宗教曲は当然宗教行事と結びついたものだ。欧米では、演奏される場所も教会がほとんどで、日本のように世俗的なホールで歌うことはそう多くないであろう。昔、ウィーンに滞在していた折、聖シュテファン教会のそばを通りかかると、モーツァルトのレクイエムが聞こえてきたのを懐かしく思い出す。ネット上にあるバーンシュタイン指揮のアヴェ ヴェルム コルプスも演奏会場はカトリック教会だ。非キリスト教徒の私がこうした宗教曲を歌う意味を今一度吟味する必要がありそうだ。