2012年2月28日火曜日

ヴェルニゲローデ Wernigerode の合唱団

合唱ファンなら、ヴェルニゲローデというと、世界的に名の知れたドイツの合唱団のことを思い浮かべる人も多いだろう。ハルツ山系の北側に位置する、人口わずか3万5千人ほどの、美しい木組みの家が立ち並ぶ小さな町で、観光で訪れる日本人も多い。この町にある音楽専門のギムナジウム(9年生の中高等学校)には年齢ごとに4つ合唱団があり、なかでも「ヴェルニゲローデ放送青年合唱団「Rundfunk Jugendchor Wernigerode」はレコードやCDでも知られ、2006年には来日公演している。他に、11,12歳の子どもからなる少年少女合唱団 Kinderchor 5/6 Wernigerode、13,14歳の少年少女合唱団 Kinderchor 7/8 Wernigerode、さらには15歳〜18歳からなる女性合唱団 Mädchenchor Wernigerode はいずれもコンクールなどで1位を獲得するなど、レヴェルは相当高い。ヴェルニゲローデには他にもレヴェルの高い合唱アンサンブル(その一つに,2007年にドイツでグランプリを獲得したヴェルニゲローデ室内合唱団 Kammerchor Wernigerode がある。この合唱団は上記合唱団の出身者からなり、学生時代は寮生活をともにしている)がいくつかあり、合唱の一つのメッカと言ってもいいだろう。日本でも「ヴェルニゲローデ放送青年合唱団」によるドイツ民謡の合唱CDが売り出されているが、そのハーモニーの美しさは秀逸である。
この町にこの世界的な合唱団が誕生したのはそう古くない。旧東ドイツ時代の1951年、当時の高等学校に着任した若き音楽教師フリードリッヒ・クレル Friedrich Krell (1928年生まれ)が校内に合唱団を設立し,その後45年間の長きにわたって指導に当たった。この合唱団が「ヴェルニゲローデ放送青年合唱団」の名を戴くようになったのは1973年のこと。その間学校に音楽科がもうけられ、20年ほど前に音楽専門のギムナジウムに再編成された。この音楽ギムナジウムは特に合唱に力を注いでいる。一人の指導者の熱意がドイツの小さな田舎町に大いなる伝統を築く一つの例だ。

ところで、You Tube にこの合唱団が歌っている動画サイト(http://www.youtube.com/watch?v=ztY9axePaMc&feature=related)がある。曲はEvening Rise というネイティヴ アメリカンのフォークソングらしい。単純素朴なメロディーでありながら、よい編曲とこの合唱団の優れた演奏で耳にいつまでも留まる,美しい曲だ。2,3年前の投稿のようなので、以前話題になったのかもしれないが、私には初めての曲だ。アンコール曲にこの曲などいいのでは、などと思う。ネットで楽譜が入手できないか調べても今はまだ見つからない。どなたかお持ちではないだろうか。あるいはどなたかに頼んで楽譜を起こしてもらおうかとも考えている。




2012年2月24日金曜日

聞き合うこと

合唱にとって大切なことの一つに、「聞き合うこと」が挙げられる。指導者・指揮者が口を酸っぱくして言うことだ。わかっていても、悲しいかな、合唱を始めて日が浅い私などは,譜面の内容、つまり音程、リズム、歌詞,諸音楽記号などに注意を奪われ、余裕が無く、なかなかこの基本を忘れがちになる。どうもこの基本がともするとおろそかになるのは、われわれのようなアマチュアの合唱団だけのことではないのかもしれない。
ウィーンフィルといえば世界最高峰のオーケストラの一つ。その美しい音色の基になっているのは、師弟関係による奏法の統一性、ホルンなどにみられる独自の楽器群などいろいろ言われてきたが、先だってTVで観た団員のインタビューで、興味深い話があった。ご存じの方も多いと思われるが、ウィーンフィルのメンバーは全員、夜は国立歌劇場のオーケストラ・ピットにおいて交代で演奏している。毎年9月1日から翌年の6月30日まで、国立歌劇場管弦楽団としてほぼ毎晩演奏し、このほかにウィーンフィルとして、定期演奏会、各種演奏会、外国への演奏ツアーなど、おそらく世界で最も忙しいオーケストラであろう。このオーケストラの美しい音色の秘密が、実は「他者に耳を傾けること」にある、と団員が説明しているのである。歌劇場のオーケストラ・ピットでは、否応なく歌手たちの歌に耳を傾けざるを得ない。歌手たちに助け船を出すプロンプターがいるとはいえ、演奏における「事故」がつきものらしい。指揮者も万全でないことがある。臨機応変、「事故」に備えて常に「聞く」ことが自然に身についている、とインタビューに答えるコンサートマスターの一人が言っていたのがおもしろかった。プロ中のプロともいえるウィーンフィルにして、「聞き合うこと」という基本が強調されることに新鮮さを感じた。
私が学生時代にほんの一時期所属した合唱団の指揮者で、東京混声合唱団創設者の一人、合唱指揮者にして編曲者増田順平先生も、発声訓練も大切だが、何よりも聞き合うこと、各人が他人の声と自分の声を良く聞きあえる「耳」を開くこと、その聞き合う「耳」が自然な感覚を呼び起こし、互いに感じ合うことを悟らせ、全体の中で自分を生かすことを知るようになり、ついには、一体となって合唱を生きたものにするし、互いに響き合うことに喜びと感動を感じ取れるようになる、と述べている。(「合唱界」1964年6月号) 
この「聞き合う」「他者に耳を傾ける」「他者を思いやる」という姿勢は、当然自分に余裕が有ることが前提だ。私の場合、先ずは曲を楽譜なしに指揮者に向き合い、余裕を持って歌えるようにすることが先決なのは言うまでもない。

2012年2月18日土曜日

高齢合唱団員の戯れ言

ブログなるものへの初挑戦。もとより多弁でも能弁でもない,ただの暇人の戯れ言とあってはいつまで続くやら。駄文につきあってくださる方がおられるのなら、望外の幸せ。
今後、退職後少し身を入れて取り組み始めた合唱を話題の中心に置いて、身辺雑記風に綴りたいと思う。

今筆者は4つの合唱団に所属している。といっても、練習頻度はそう多くなく、毎週4つを駆け回るということにはならない。少し大変なのは、覚える曲の数が多いこと。ご多分に漏れず、年のせいもあって、歌えるようになるまで時間がかかる。何とか他の団員に迷惑がかからぬよう、暇に任せて練習に励んでいる。

今週の「第九合唱団」の練習の折、指導者の先生(多田羅迪夫、東京芸術大学教授)が思い掛けず、ブレヒト(Bert Brecht)や、彼と結びつけて論じられる「異化効果」(Verfremdungseffekt) に言及された。「三文オペラ」(Die Dreigroschenoper)の作曲者、ヴァイル (Kurt Weill)のSong についても話され、学生時代にブレヒト研究に励む友人に刺激されて,ブレヒトの「肝っ玉おっ母」(Mutter Courage und ihre Kinder) を観に出かけたことを思い出した。多田羅先生は、「こんにゃく座」(1971年創立)の設立メンバーだとのこと。それでグランド・オペラ歌手がブレヒトを話題にすることへの若干の違和感が解消された。指導者との距離が少し近くなった感がある。

翌日は早速、書棚から岩淵達治の回想記「ブレヒトと戦後演劇 私の60年」(みすず書房刊、2005年)を取り出し、読み始めた。演劇には全く疎い身であるが、岩淵先生の肉声が聞こえてくるようで、無類に面白い。先生はもう80代半ば。数年前、少し元気をなくされたとも聞いているので、どうしているかしら。