2017年5月14日日曜日

「不都合な信実」から目をそらすことなく~Jリーグ浦和レッヅ対鹿島アントラーズの試合をめぐって



久しぶりのブログ。しかし話題はサッカーの試合。おつきあいを。

54日、Jリーグ第10節浦和レッヅ対鹿島アントラーズの試合が浦和のホーム埼玉スタジアムで開かれた。いつもそうなのだが、私はこの試合をTVで観戦した。昨年、年間勝ち点では鹿島を大きく上回った浦和が、チャンピオンシップで鹿島に敗れ、2016年Jリーグ王者の座に付くことができなかった。それだけに、浦和にとってはこの10節の対鹿島戦は2017年Jリーグ序盤戦とはいえ、どうしても負けられない一戦であった。一方の鹿島にとってもライバルとの一戦は勝ち点6にも匹敵する戦いと位置づけ、埼玉スタジアムの乗り込んできた。
試合は当然のことながら、緊張感に満ちた好試合であった。ボールのキープ率では浦和が上回り、浦和が押し気味で試合は推移しているように見えたが、鹿島は浦和に対して決定的なシュートを打たせず、決定機はむしろ鹿島に分があった。前半24分鹿島アントラーズの金崎のシュートが相手DF森脇の足にあたってコースが変わり先制する。後半に入ると浦和の焦りも手伝って鹿島の堅い守りを崩せず、結局この前半の金崎のゴールが決勝点となり、浦和は前節大宮戦に続く連敗となった。

このライバル同士の試合、人気の浦和対実力の鹿島の一戦、好試合に一つ大きな汚点を残したトラブルがあった。後半、残り15分を切った頃、浦和サイドでの攻防で、こぼれたボールを鹿島の土居がコーナーフラッグ付近にボールを運び、時間稼ぎのためのボールキープに入った。このボールを奪い取ろうとする浦和の槙野と競り合い、そこに前線から戻ってきていた興梠も加わり、もみ合いになった。微妙な判定ではあったが、土居のファールが宣告され、浦和ボールで再開されるところであったが、焦りが手伝ったのだろう、興梠がこのもみ合いの中で、土居を突き倒してしまった。これが事の発端である。
鹿島キャプテン小笠原が主審にイエローカードを出すようアピールする。金崎、レオ・シルバ、鈴木も興梠に詰め寄ろうとしているが、試合巧者の鹿島らしく、この機をとらえて時計を進めようとしていて、それほどエキサイトしているようにも見えない。ところが、そこへ浦和DFの森脇が走り寄り、レオ・シルバに絡む。これにシルバの表情が急変するのが見て取れる。森脇にシルバを挑発するような言動があったと容易に察せられる。この直後、主審にアピールしていた小笠原がそれに気づき森脇に詰め寄ろうとするが、浦和のDF那須や西川、ラファエル・シルバが両者の間に入り、浦和ボールで試合が再開する。
強いライバル関係にある両軍による緊張感のある試合とはいえ、エキサイトが昂じた荒れた試合などではなかった。問題の場面でも、両軍入り乱れての乱闘騒ぎになったわけでもない。浦和のキャプテン阿部や当事者の土居もこの揉め事を傍観している様子がうかがえる。明らかに、森脇の言動がシルバを怒らせ、小笠原の問題提起につながった。
アントラーズ勝利に終わった後、クールダウンした小笠原がメディアに対して、問題の場面で、森脇選手がレオ・シルバに「くせえな、おまえ」と侮蔑的な言葉を吐いた、と訴え、これは今回に留まらず、これまで繰り返されてきたことだと問題提起した。これに対して、森脇はこの暴言自体は小笠原に向けたものだといい、シルバに対してのものではない、と否定した。これらについてはネットでも問題の映像共々大きく取り上げられているので詳細は省く。
鹿島アントラーズはマッチコミッショナーを通じて、Jリーグに森脇選手の言動について規律委員会において調査するよう求めた。一方浦和レッズも当事者の森脇や他の浦和の選手への聞き取りを行った結果として、森脇選手の言い分を否定するものはなかったと報告した。
Jリーグ規律委員会は両軍およびこの試合のレフリーからの報告、さらには森脇選手と小笠原選手のヒアリングを行い、森脇選手の侮蔑的な発言について、それが誰に向けられたものかは不明として、森脇選手の2試合出場停止処分で決着を付けた。この処分についてネット上では様々な評価がされている。単なる暴言と考えるなら、重いともいえるし、過去の海外の例を含め、妥当と判断することもできる。
しかし、小笠原選手の問題提起に対して、規律委員会はその組織にふさわしい調査をしたのか、と言う点で禍根を残したといえる。森脇の暴言について、よく言えば疑わしきは罰せず、の原則に従ったともいえるが、それは誰もが納得のいく調査が前提だ。映像を見れば森脇が最初に絡んだのはレ・シルバに対してのものであることは明らかだ。ならばなぜレオ・シルバからのヒアリングを行わなかったのかが大きな疑問となる。小笠原の、さらには鹿島側の問題提起もポイントはそこにあったのだから、当事者からのヒアリングは欠かせないはずだ。

この度の決着は、浦和はもとより、Jリーグにとっても外国人選手差別につながらない結論が先にあったとしか見えない。その点では運命共同体としての両者の思惑が一致している。浦和の報告もこの結論を先取りしているようにも見える。小笠原の聞き取りは40分、森脇のそれは90分と伝えられている。しかし森脇によると、自分の言い分をヒアリングに於いて十分聞いてもらえた、という。規律委員会とはいえ、査問ではなく、ゆるい聴聞であったようだ。問題提起した鹿島の顔を立てつつ、森脇の対象不明の侮蔑的発言を断罪する、まるで森脇の独り言であったかのように。