2012年10月20日土曜日

バスクの合唱団


 マーラーの交響曲第2番「復活」の演奏会が間近に迫った。市民オーケストラと市民合唱団を母体に、この演奏会のために結成された大半がアマチュアのメンバーであるが、オケ合わせを重ねるに従い、良くなってきた。前回の練習時には、合唱団はいつ立ちあがるかの指示があった。You Tube などで、どのタイミングで立つのか少し調べてみた。その中でこれはいいなと感じたのは、以前録画してあった2003年8月のルツェルン音楽祭でのアッバド指揮による演奏である。合唱団は合唱部分の半分は座ったままで、途中「勝ち取った翼で光に向かって飛び去ろう」が始まる前のところで立っている。ヴィデオでは立ち上がる場面が映っていないので、正確なタイミングはわからないが、この合唱部分に先行するソプラノとアルトのソロが歌われているときに違いない。歌詞の内容から見て、これもありだな、と思った。

 ところで、以前は見逃していたのだが、この演奏で歌っている合唱団はオルフェオン・ドノスティアラ Orfeon Donostiarra というスペイン北東部バスク地方の合唱団である。映し出されるメンバーの顔ぶれを見ていると、職業が様々のアマチュアの合唱団かと思ったが、それにしては技術も確かなので、改めて調べてみたところ、1897年にバスクの主要都市サン・セバスティアンで結成された110年以上の歴史のある合唱団ということである。これまでに名だたるオーケストラやマエストロたちとも共演している。その中には小澤征爾も含まれる。この合唱団のコンセプトの一つにバスク地方の音楽の保存と普及があげられている。更には結成以来アマチュアを維持しながら、高い芸術性とハーモニーの美しさへの飽くなき情熱を掲げる。(本合唱団ホームページ)
 
 欧州経済が混迷を深める中で、その震源地の一つに挙げられるスペインでは、バルセロナがその州都であるカタルーニャ自治州とバスク自治州がスペインからの分離独立を求める動きを強めている。両自治州は歴史的にみても常にマドリッド中央政府から遠心力を働かせてきたが、特にフランコ独裁体制のもとでは過酷な弾圧を受けた。ピカソの「ゲルニカ」は、スペイン内戦時にフランコ軍に加担したナチが、バスクの小さな町に対して行った世界最初の無差別殺戮を描いたものとして知られる。サッカーのスペインリーグ「リーガ エスパニョーラ」のFC バルセロナとレアル・マドリッドの対戦、いわゆる「クラシコ」は、中央対地域の代理戦争の様相を呈する。つい最近も第7節のクラシコではカタルーニャの旗がバルセロナのホームスタジアム カンプ・ノウに翻り、場外では独立を巡って舌戦が繰り広げられた。他方、バスク自治州の伝統ある有力チーム、アスレティック・ビルバオはチームコンセプトとして、バスク人選手のみを登録している。レアル・マドリッドがまるで世界選抜のようなチームであることとは対照的である。

 バスクの起源は不明であるが、一説にはクロマニヨン人の末裔ともいわれる。言語も、周囲のインド・ヨーロッパ語群とは全く関連を持たず、世界のどの言語とも系統的なつながりがない。バスクの人口は国境をまたぐフランス西部の住民を入れても300万足らず。世界有数の合唱団がこのスペイン辺境の地にその根拠をおいているのである。