2015年9月23日水曜日

O Holy Night ー さやかに星はきらめき



暮れ恒例の「第九」はホール改修のため今年は取りやめとなり、代わりにクリスマス曲を中心に子どもたちと一緒のステージを組むことになった。

合唱団員の大半が非クリスチャンであることを考慮したのであろうか、音楽監督はカワイ出版の「リーダーシャッツ クリスマス曲集」の中からすべて世俗的なクリスマス曲を選んだ。
その1曲が標題の O Holy Night 「さやかに星はきらめき」。

筆者自身はこの曲のことを、ああ、聴いたことがある、という程度であったが、あらためてネットで調べてみると、キリスト教徒はクリスマスの折に教会でよく歌っているようだし、一般の人にも「きよしこの夜」や「ジングルベル」と並んで親しまれてきた曲であることを知った。
YouTube にあたってみると、実に大勢のオペラ歌手やポップシンガーたちが様々な編曲で歌っている。その中から録音状態が良く、気に入った14,5ヴァージョンをCDに録音して楽しんでいる。

この曲は教会の礼拝とは関係なく、世俗的な行事やクリスマスの喜びを盛り上げるために歌われるもののようだが、日本キリスト教団編の「讃美歌第二編」にも入っている。
今回歌うのは、信長貴富編曲、海野洋司訳詞のもの。「讃美歌集」所収の曲は、同様に混声四部ではあるけれども、訳詞は由木康、編曲は「讃美歌編集委員会」によるもの。

ところで、この曲はフランス生まれで、原題はCantique de Noël 「クリスマスの歌」だが、冒頭歌い出しの言葉から”Minuit, chrétiens"ともいう。もともとフランスの詩人プラシド・カポー Placide Cappeau(1808 - 1877) が1843年、ロクモールにある教会オルガンの修復を祝うイベントのため作詞、ほどなくして、バレー曲「ジゼル」で知られる作曲家アドルフ・アダンAdolphe Adam (1803 - 1856)がこの詞に曲を付けた。
この曲が世界に広まるのはボストン生まれのジョン・サリバン・ドワイト John Sullivan Dwight(1813 - 1893)の英訳詞 "O Holy Night"によるところが大きい。訳詞とはいえ、ドワイトはかなり自由に訳している。
YouTube で聴くと、オペラ歌手は結構原語で歌っているが、圧倒的に英語によるものが多い。

詞の内容はイエスキリストの降誕を祝うクリスマス讃歌だが、なんといってもその旋律の親しみやすさと美しさが人気を集めるのだろう。歌手たちが気持ちよく、伸びやかに歌っていることに惹かれる。
YouTube ではドミンゴとパヴァロッティの二重唱も聞きものだが、今をときめくペルー出身のテノール、 フアン・ディエゴ・フローレスがよくその美しい高音を聞かしてくれる。彼はまたエリナ・ガランチャともデュエットしている。マライア・キアリーも人気があるが、アクセスが最も多いのはケルティック・ウーマンの Holy Night。サラ・ブライトマンも歌っているが、残念ながら録音状態が良くない。スタジオ録音のものがあれば聴きたいのだが。少年合唱団リベラ Libera や ケンブリッジのKings College合唱団が歌うO Holy Night が心地よい。イギリス版スター誕生で一躍時の人になったスーザン・ボイルも歌っているが、音作りに手が入りすぎ。
以上のもののに比べて、われわれが歌う信長版「さやかに星はきらめき」は、この曲がもつ伸びやかさにやや欠けている気がする。これは時代が求める今風の編曲かもしれないが。


2015年9月20日日曜日

 安倍政権にレッドカードを! ー「安全保障」法案成立  



参議院に一縷の望みを抱いたが、それもむなしく、とうとう違憲安保法案が成立した。
成立したとはいえ、国会審議における政府説明のでたらめさ、強引な国会運営と強行採決を考えると、この法案は正当性を欠いたものと言わざるを得ない。
何より憲法違反であること、さらに、戦後70年日本が平和国家として積み上げてきた外交、防衛政策を大きく転換させるにもかかわらず、各種世論調査の結果や60年安保以上の反対の声を無視し、強引に成立を図った事に見られるように、この政権が民主主義を蔑ろにしていることが正当性を損なっている。

安倍政権がもたらしたものは平和国家としての日本ブランドの毀損だけに留まらない。
法案が成立した直後の報道によれば、日本の国債の評価が一段階引き下げられ、韓国、中国よりも低くなった。国の借金が1千兆円を超え、財政破綻の危惧が高まってきたことを物語っている。この度の法案成立により、軍事費が増加することは必至で、そのことがますます財政を苦しくすることが明らかであるからだ。

前のブログにも書いたが、「集団的自衛権行使容認」に伴う関連「安保法案」の狙いは、端的に言って、日米軍事同盟の強化である。
安倍首相がいう抑止力云々はこれをもとにしている。抑止力が働くのは弱小国に対してであり、大国に対しては有効とはいえない。むしろ軍拡競争を招く。いわゆるミリタリーバランスも際限のない軍拡競争を引き起こす。
少子高齢化著しく、借金大国の日本では財政的に軍拡競争に耐えられない。

国際環境の変化なる言葉もこの度の法案趣旨説明で使われた言葉だが、台頭する中国を念頭に置いたものであろう。
中国を仮想敵国にする日米軍事同盟強化は東アジアの緊張を高めるだけである。
軍拡競争に耐えられなくなり崩壊した旧ソ連の共産党独裁体制の前例に倣って、日米結託して中国に軍拡競争を仕掛けるつもりでは無かろうが。

安倍政権下で起こったことでわれわれが看過できないことの一つに、メディアの劣化である。
一部のメディアが安倍政権を支えたと言っても過言ではない。
それは名指しするなら、読売新聞、産経新聞、同系列のテレビである日テレ、フジテレビであり、さらにはNHKも一大禍根を残した。これらのメディアはジャーナリズムの精神を忘れたかのような報道振りであった。
NHKの信頼回復は容易ではない。新聞は購読取りやめで市民は対抗できるが、受信料支払い拒否はそう簡単ではないだけに、税金ではなく、国民各世帯が支払う受信料で成り立つNHKの罪は重い。
しかしこれらの有力メディアの存在にもかかわらず、世論調査の結果を見ると国民の大半は健全な判断をしていたようだ。

安倍政権だけのせいには出来ないかもしれないが、与党自公の劣化も著しいことが明らかとなった。
かつての自民党はリベラル勢力が主導していたが、今は安倍晋三に集まった極右勢力に乗っ取られた風に見える。今後、党の中のリベラルバネが働かない限り、遠からず政権を失うであろう。
また公明党は結党以来の危機を迎えるだろう。安倍政権に加担したことで、得るよりも失うことの方が大きいはずだ。

過去3年の安倍政権の歩みを振り返ると、彼が言う「戦後レジュームからの脱却」なるものが見えてくる。
日本版NSCの創設、特定秘密保護法の制定、防衛装備移転三原則、ようするに武器をより容易に輸出できるようにすること、道徳教育をはじめ、より国家主義的な教育への方向付け、派遣労働など、労働者保護の抑制、そしてこの度の安保法案である。
このように並べると、これらは現行憲法の基本精神から乖離した性格を持つことがよく見える。それはそうだ、安倍首相は憲法「改正」の意図を隠そうともしないのだから。
しかし、逆にこの度のことで、憲法改正がより困難になったように見える。少なくとも安倍政権のもとでは出来ないであろう。

さて安保法案の成立をうけて、今後何が起こるだろうか。
近未来あり得ることとして、来年早々にも自衛隊が、中東やアフリカに派遣されるであろう。
今シリアなどからの難民が大勢ヨーロッパに押し寄せている。難民問題は今や待ったなしの状況だ。
この難民発生の原因を取り除くためには、もはや軍事的にシリアの内戦を停止させることと、IS 国(イスラム国)を制圧するほか解決法が見いだせない。今は空爆のみだが、地上軍も投入されるかもしれない。
いずれにしても、同盟国日本はアメリカなどの派遣要請を断れないであろう。アフリカもしかり。

普通に考えて、内戦下に自衛隊が派遣されれば、隊員に犠牲者は出るだろう。
もしかすると犠牲隊員の家族が政府を相手取って訴訟を起こすかもしれない。
それは安保法案の合憲性が問われる訴訟になるはずだ。

安倍一派に乗っ取られた自民党は、病気で安倍首相が退陣しない限り、少なくとも来年の参議院選挙までは政権を維持するだろう。
選挙を有利に運ぶためにも安倍政権は、今後安保法案など無かったかのごとく、一転景気回復をテーマに掲げるだろう。その中で最大の問題は消費税10%への増税問題だ。
安倍首相は再度先送りしたいのであろうが、先にも触れたように、財政再建が待ったなしの中、財務省の抵抗を抑えて先送りできるかどうかが問われる。

60年安保以来最大となった市民運動が今後どのように展開するのか、注目したい。
いわゆる党派性を超えた大きな市民運動はこれまで経験したことがない。これが一過性のものなのか、それともヨーロッパのように、議会も政府も無視できない運動として定着していくのか、それはやがて来年の参議院選挙で試されるであろう。
今のままの自公体制が来年以降も続くようであれば、日本はいよいよおかしな方へ向かう。
市民運動の側も知恵を絞って持続したものにする必要がある。そのためにはまず党派性を排除することだ。それには最大公約数的なスローガンを掲げることが出来るかどうか。
当面は安保法案に賛成する議員(野党も含む)の落選運動だろう。
若者たちに期待したい。

                                    2015-9-20