2015年4月17日金曜日

フェルマータ は延声記号?



 合唱経験の浅い高齢の筆者は、楽典の知識も中学生の頃のまま。覚えるより忘れる方がはるかに早く、音楽記号・標語はそのたびに調べ直しを繰り返す。
それでもフェルマータ 記号くらいは知っていたつもりであった。

 ところが、バッハ『マタイ受難曲』の中のコラールO,Haupt voll Blut und Wunden (おお、こうべは血にまみれ)を事前練習をしていて、フェルマータ記号で伸ばすと、どうも奇妙に感じられた。コンマで区切られているところは伸ばしても、そんなものかなと違和感はそれほどないのだが、コンマで区切られていないところで伸ばすのは、言葉のつながりから考えても釈然としない。

 指導者の先生による練習時、フェルマータのところでは、指揮を止めずそのままのテンポでお振りなる。当然、フェルマータは伸ばすものと考えていたのは筆者だけではなく、乱れたまま歌い通した。一通り歌い終えた後、指導の先生はバロックの時代ではフェルマータは区切りを表すのに用いられた、と説明して下さったので疑問は氷解。
 
 あらためて手元の『クラシック音楽事典』(平凡社刊)を調べてみると、「音符または休符の長さを引き延ばすこと」としか書いていない。小学館の『伊和中辞典』でfermata の項目をひくと、音楽記号としての意味はやはり、延声記号としか出ていない。ついでながら、イタリア語では通常、この記号はcorona というとのこと。
 他の音楽事典にあたってみようとしたものの、音楽好きの孫が持って行ってしまったので、手元には日本合唱指揮者協会編の『合唱ハンドブック』(カワイ出版)くらいしかない。あまり期待せずに調べてみると、なんとちゃんと載っているではないか。先の音楽事典とは打って変わって、小粒な事典なのに、フェルマータについては次のように説明している。

 (1)臨時に拍の進行を停止させ、音や休符を延長する記号。
 (2)終止記号として楽曲の終わりを示し、複縦線上などにおかれる。
 (3)コラールで歌詞の段落を示すもの。
 
 この度は(3)の説明がそのまま当てはまる。
 
 念のため、Wikipediaの日本語版で「フェルマータ」の項にあたってみると、こちらではこの記号の歴史を含め、かなり詳細な記述がなされている。バロック以前のフェルマータ記号については、近年の研究による、とあり、まだ論議の余地がありそうだ。少なくとも中学生の理解が自明のものではないことがわかる。

 たかがフェルマータという無かれ、一度立ち止まってこの記号についてとくと調べてみる必要がありそうだ。
 そういえば、イタリア語のフェルマータとは英語の stop 、「立ち止まること」の意味。イタリアの街を歩くとよくfermataの語に出会う。何のことはない、バス停の意味。
                                              2015年4月17日

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