2017年6月6日火曜日

「テロ等準備罪」法案、そして「加計学園」問題

 通称「テロ等準備罪」法案が参議院に送られ、審議が始まった。「共謀罪」の通称が使われる事があるように、何ともわかりにくい法案だ。過去に何度か廃案になった「共謀罪」法案が安倍政権のもとで装いも新たに復活。正確には「組織的犯罪処罰法改正案」というらしい。277の組織的犯罪を計画し、資金調達などの準備行為を処罰する内容だ。277もの例を挙げられるように、広範囲の組織的犯罪が対象になる。
 問題はこのような組織犯罪が実行に移された後ではなく、準備段階が取り締まりの対象になる点である。さらに、組織的犯罪集団かどうかを判断するのはあくまでも捜査機関であること。準備段階からの捜査となると、当然内偵などスパイ行為が必要になる。一層国民監視が強まることは必至だ。平成の「治安維持法」と呼ばれるゆえんだ。
 おそらく、この法案が成立すれば、早晩新たな「公安警察」が組織されることになるだろう。少なくとも、警察組織の大幅な改編と増員が必要になる。端的に言って、この法案は、国民の暮らしがより安全になるものなどではなく、戦前の治安維持法がそうであったように、国民に刃向かうものだ。

 かつて東欧圏の社会主義国家には市民を監視、密告を奨励する保安機関が存在した。旧東独では通称「シュタズィ」(Staatssicherheitsdienst の略。国家保安省)とよばれた。人口1600万人ほどの国家に、2万数千人の正規職員の他に、いわゆる協力者と呼ばれるその数十倍もの密告者が日常的に働いていた。電話の盗聴、郵便の開封は当たり前、それらを前提に市民は声を潜めて生活していた。
ロシアのプーチン大統領は旧ソ連のKGBの出身だが、旧ソ連だけでなく、お隣中国にも「国家安全部」と称する国民にとっては全く安全でない公安組織がある。筆者をウイグル自治区に案内してくれた留学生が「安全部」職員から事情聴取を受け、とても怖かったと述懐していたことを思い出す。また他の留学生は日本人の友達を伴ってウイグル自治区に帰ったところ、やはり安全部に呼ばれ9時間に上る聴取を受けたそうである。日本人の友達も3時間拘束されたという。

 今の中国がそうであるように、権力が腐敗してくると、国民の批判を恐れ、異論を廃し、強権的に国民に向かうようになるのは古今東西を問わない。国民の批判の先頭に立つのはメディアだが、当然このよう権力はメディア支配を強める。日本で最大の購読者を持つ新聞が政権の御用達と化しているのは非常に危惧すべき事態だ。


 「森友学園」に始まって、今「加計学園」問題が政権を揺るがせている。「共謀罪」法案の重大性に比べれば、小さな権力乱用、腐敗問題だ。しかしこの度の問題を通してこの政権を担っている人物たちがどのように権力を乱用するかがよく解る。
 過去50年あまり獣医学部の新設がなかったのだから、さらにはペットブームは相変わらずで、獣医師をもっと養成する必要があるだろう、そのように考える国民も多いだろう。
 現在一年に約1000名の獣医師が誕生する。今から約30年あまり前に、それまで、獣医学部で4年間の教育を受ければ、国家試験を受験することができたものを、医師免許と同様、6年制にあらためられた。
 獣医師の地位向上の意味もあっただろうが、それよりも獣医師の過剰を緩和するために実質2年間新規の獣医師を世に送り出さないことで調整を図った。獣医師の関係省庁は農水省だが、農水省は業界団体の強い要請があり、文科省に対しても獣医学部の新設、増設を認めないよう働きかけてきた。
 現在大学は少子化の影響で、約半分の大学で定員割れを起こしている。いわゆる団塊世代二世の1973年生まれは206万、昨年はついに100万人を割った。団塊世代二世の時代の大学定員はほとんど変わらない。
 この度の「加計学園」が計画している獣医学部定員は160名。国公立大学に比べて多い私学の獣医学部定員でも120名程度だから、他の関係私立大学は戦々恐々としているだろう。農学部、畜産関係学部を持たない学校法人の獣医学部新設も異常なら、その定員の多さも驚くほかない。
 通常私立大学のキャンパスが経営的に成り立たせるには学部、大学院の総定員数は2500~3000名は必要だ。この度の計画ではせいぜい1000~1100名であろう。高額の学費を設定しなければ成り立たない。学生を集めるのも大変であろうが、教員を集めることにも困難が伴うことは容易に想像できる。学生の質も、教員の質も多くは望めない。この度の加計問題はなんとも不思議に見える。

 獣医学部新設を認めない姿勢を取ってきた文科省は間違っていない。強権的な性格を剥き出しにしつつある安倍政権のもとで、その文科省は今蜂の巣をつついたような状態ではなかろうか。文部行政を冷ややかに見てきた筆者も、このたびは情報を漏洩した前川前次官を始め文科省職員にエールを送りたい気持ちだ。
 おそらく安倍官邸は報復人事を敢行するであろうが、このような時こそ卑劣な人間をとくと拝見できるものだ。


                                      2017-6-6

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