2012年2月24日金曜日

聞き合うこと

合唱にとって大切なことの一つに、「聞き合うこと」が挙げられる。指導者・指揮者が口を酸っぱくして言うことだ。わかっていても、悲しいかな、合唱を始めて日が浅い私などは,譜面の内容、つまり音程、リズム、歌詞,諸音楽記号などに注意を奪われ、余裕が無く、なかなかこの基本を忘れがちになる。どうもこの基本がともするとおろそかになるのは、われわれのようなアマチュアの合唱団だけのことではないのかもしれない。
ウィーンフィルといえば世界最高峰のオーケストラの一つ。その美しい音色の基になっているのは、師弟関係による奏法の統一性、ホルンなどにみられる独自の楽器群などいろいろ言われてきたが、先だってTVで観た団員のインタビューで、興味深い話があった。ご存じの方も多いと思われるが、ウィーンフィルのメンバーは全員、夜は国立歌劇場のオーケストラ・ピットにおいて交代で演奏している。毎年9月1日から翌年の6月30日まで、国立歌劇場管弦楽団としてほぼ毎晩演奏し、このほかにウィーンフィルとして、定期演奏会、各種演奏会、外国への演奏ツアーなど、おそらく世界で最も忙しいオーケストラであろう。このオーケストラの美しい音色の秘密が、実は「他者に耳を傾けること」にある、と団員が説明しているのである。歌劇場のオーケストラ・ピットでは、否応なく歌手たちの歌に耳を傾けざるを得ない。歌手たちに助け船を出すプロンプターがいるとはいえ、演奏における「事故」がつきものらしい。指揮者も万全でないことがある。臨機応変、「事故」に備えて常に「聞く」ことが自然に身についている、とインタビューに答えるコンサートマスターの一人が言っていたのがおもしろかった。プロ中のプロともいえるウィーンフィルにして、「聞き合うこと」という基本が強調されることに新鮮さを感じた。
私が学生時代にほんの一時期所属した合唱団の指揮者で、東京混声合唱団創設者の一人、合唱指揮者にして編曲者増田順平先生も、発声訓練も大切だが、何よりも聞き合うこと、各人が他人の声と自分の声を良く聞きあえる「耳」を開くこと、その聞き合う「耳」が自然な感覚を呼び起こし、互いに感じ合うことを悟らせ、全体の中で自分を生かすことを知るようになり、ついには、一体となって合唱を生きたものにするし、互いに響き合うことに喜びと感動を感じ取れるようになる、と述べている。(「合唱界」1964年6月号) 
この「聞き合う」「他者に耳を傾ける」「他者を思いやる」という姿勢は、当然自分に余裕が有ることが前提だ。私の場合、先ずは曲を楽譜なしに指揮者に向き合い、余裕を持って歌えるようにすることが先決なのは言うまでもない。

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